2013年9月13日金曜日

現代のハードボイルド  vol.004

男であるならば、寡黙に、多くを語らず、
自分の流儀から少しでもはずれることなら、
たとえ命と引き換えになろうと、
首を縦に振らない。
男であることに、俺が俺であることに、
こだわり続ける。
それがハードボイルド。

そんなステレオタイプなハードボイルドの時代は、
すでに終わっている。

ほんとうに譲れないこと。
たとえ相手が誰であろうと、それだけは守る。
それが真のハードボイルド。
ちっぽけなこだわりなんて、捨ててしまえ!
なんにでもチャレンジするくらいの貪欲さを持て!



8月の中ごろ。
西にあるアジトにヘルプに行ってきた。
想像していたセクションとは違うセクションに行くように言われ、
少し面食らったが、基本は変わらない。
みな様に穏やかに過ごして頂けるよう、丁寧かつ親しみを持って接するよう心がける。


気がつくとお昼前になっていた。
スタッフの方1名と一緒に、昼食の準備に入る。
食材は半調理された状態で供給される。
それらを暖めなおしたり、お皿に取り分けたりする。
俺がこのセクションの昼食準備をするのは、自分のアジトも含めて今日が初めて。
慣れない作業だが、新鮮かつ勉強になる。
西のアジトにしてみれば、ヘルプで来ているのに一人で任せられないゆえ、困ったなという思いがあったかもしれない。
その点、申し訳なく思う。

ご飯と味噌汁は供給されず、アジトで用意する。
ご飯は炊けている。
メニューでは、今日はお味噌汁ではなく、お吸い物となっている。
スタッフの方が俺に尋ねた。
「お吸い物、作れます?」
俺は答えた。
「おっと!、作れません、すいません」
「お味噌汁とか作ったことあります?」との問いかけに、
「人生で一度もないです」と答えるしまつ。
やったことがないものは仕方ない。

「そっか、じゃあとりあえずお鍋にお水を入れて、適当に出汁のもとを入れて…」
スタッフの方は手早く準備し、出汁のもとをサラサラっと入れていった。
手際がいいなぁ、すごいなぁ。
と感心して見ていると、スタッフの方は薄口しょうゆとミリンを取り出し、言った。
「じゃあこれで、適当に味を見ながら、作ってもらえますか?」

「へ?」

という驚きを顔に出さないように頑張りながら、

「わっかりましたー!」 (まじっすかー!)

こうして俺の人生で初めてのお吸い物作りが始まった。
恐る恐る、薄口しょうゆとミリンを少しずつ入れる。
小皿に取って、味見する。
………。
出汁のお湯の味しかしない。

もうちょっと大胆にしょうゆとミリンを入れる。
そして味見。
………。
わからない。
薄いのかな?

もうちょっと入れてみる。
味見する。
わからん。
スタッフの方にも味見してもらう。
「うーん、なんやろね?」

もうちょっと大胆に入れる。
味見する。
おっ!気配がある。
隣でスタッフの方が言う。
「もしあれなら、もうちょっと出汁のもとを足してみる?」
いや、ちょっと待って下さい。

少し、薄口しょうゆとミリンを入れる。
おぉ!いいんじゃね!
スタッフの方にも味見してもらう。
「うーん、これでよしとするか」
ありがとうございます!

突然の、失敗の許されない冒険に、
短い時間ながら、ハラハラした。
だけど、出来上がったときのプチ充実感。

あの日から、俺はこう言えるようになったんだよ。
「俺、お吸い物つくったことあります!」

近いうちに家でもやってみよ。
しまった!
どのくらい出汁のもとを入れるのか、聞いておくの忘れた!

でも聞いたとしても、たぶん答えは決まってるんだろな。
「んー、適当だよ。」



以上だ。
Goodnight & Goodluck